本企画は「2020年の居場所はどこにあるの?」というテーマに対して、建築家に、彼らの特殊技能ともいえる”設計”を封印して頂き、”選書”という誰もが行うことのできる手段によって答えてもらおうというものです。
私たちでもできる「本を選ぶ」という行為であれば、自分の感覚と比較しやすいので、建築家のユニークな頭の中が浮き彫りになって選書に表れるはずです。
百田有希氏(左)と大西麻貴氏(右)
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記念すべき一周年に、大西麻貴氏と百田有希氏のお二人を指名させていただきました。お二人は大西麻貴+百田有希/o+hというユニット名で20代の頃から活躍を続けてこられた建築家です。お題は「道」です。
ところでこのお題、毎回 建築コンシェルジュの坂山がゲスト建築家と打合せをして決定をしています。今回は日本橋浜町にある、まるで八百屋さんのように通りに開かれた、お二人の設計事務所でお打合せをさせていただきました。
道に面した、八百屋さんのような設計事務所 |
打合せの中で浮かび上がってきたキーワードは「記憶」でした。お二人の建築思考において、「記憶」はいつも意識されているそうです。
とっても面白そうなテーマでしたが、居場所を考えるお題として、より具体的なものをお願いしたい!とワガママを言ってみる坂山。もうひと悩みしていただいた末に彼らが辿り着いた答えが「道」でした。
なるほど確かに、お二人の建築には道に似た空間を見つける事ができます。例えば「二重螺旋の家」の、建物に巻きつく階段はまるで入り組んで先の見えない路地のようです。今までに見たこともないようなユニークな住宅ですが、そこには「お二人が過去に体験した豊かな路地空間という記憶」と「下町の風情が残る敷地周辺の記憶」が刻まれています。
二重螺旋の家(2011) |
そして何よりお二人の居場所である仕事場が道と一体化した空間であることに気づくと、「道」がお題として相応しいと確信したのです。
選んでいただいた書籍のいくつかを、お二人から寄せていただいたコメントとともにご紹介します。
マルセル・プルースト『失われた時を求めて』岩波文庫
一杯の紅茶から過去の記憶の空間が立ち現れる一節を読んだ時、本当に空間が煙のように数珠つなぎになって、カップから浮かび上がる様が見えたように思いました。記憶の中の空間は連続的なのだということを思い出させてくれる本です。
ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』集英社文庫
美しい6月のロンドンの街を歩く冒頭の文章が素敵です。瑞々しく、光に溢れ、人に出会い、車が走り、店のショーウィンドウに目をとめたり、ふと昔のことを思い出したりと、道を歩く経験がこんなにも豊かで快楽的なのだと気づきます。
浅見泰司『トルコ・イスラーム都市の空間文化』山川出版社
イスタンブールを訪れたとき、街路の楽しさに心奪われました。折りたたみ式・移動式家具のリサーチなど、イスタンブール特有の街路を使いこなす知恵がたくさん載っていて、私たちももっと道を使いたい!という気持ちになります。
どれも「道」や「記憶」に対する概念や想像をどんどん膨らませてくれる書籍であることが、お二人から寄せて頂いた素敵なコメントからうかがえますね。
実はこれらの他にもお二人に選んで頂いた書籍があるんです。現在、建築フロアでは下の写真のように「o+h選書棚」をしつらえておりますので、ぜひお越しください。もちろん全てのタイトルにお二人のコメントが添えられております。こちらは4月15日まで開催予定です。
でもご安心ください。選んで頂いたすべての本について大西氏、百田氏から直接お話を伺うことのできるトークイベントを、4月4日に開催いたします!コンシェルジュ坂山は特に今回リストに含むことのできなかった『中野本町の家』(後藤 暢子他 住まいの図書館出版局)については絶対直接聞いてみたいと思っております。
建築家による選書棚シリーズ「BOOKS with ARCHITECT」
第八回 建築家・大西麻貴+百田有希と「道」
http://tsite.jp/daikanyama/event/004705.html
こどものみんなの家(2013)
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とりわけ、昨年まで伊東豊雄建築設計事務所に勤務なさっていた百田氏がどのように語ってくださるのか、大変興味深いです。みなさまもどうぞお聴き逃されないよう、ご参加お待ちしております!
ご紹介したイベントへの参加はオンラインストアでもご予約いただけます。
オンラインストアはこちらから。
建築コンシェルジュ 坂山 毅彦
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