代官山 蔦屋書店 オフィシャルブログ
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「中判カメラ」のあるライフスタイル。中判カメラで撮られた気になる写真集!

2014年11月27日19:00
高機能を誇る種々のコンパクトカメラや携帯カメラの普及のなか、根強い支持を得ているカメラがあります。アサヒペンタックスなどの一眼「中判カメラ」です。代官山蔦屋書店2号館アートフロアでは、おもにペンタックス中判カメラを愛機にするファッション写真家たちの写真集を集めたコーナーを現在もうけています。


2号館アートフロアでのPentax中判カメラによる写真集コーナー


もともとは「中判カメラ」は、重量もあり、かさ張る大判カメラを携行し難い、山岳写真や風景写真、空撮写真といったドキュメンタリーのフィールド用に開発されたものでした。


 Pentax中判カメラを愛機とするセバスチャン・サルガド


 ところが1970年代以降、現在にいたるまで、そうした用途だけに限らない使われ方がなされるようになっていきました。

その理由は、大判カメラでは使用できないロールフィルムが使え、大きな引き伸ばしに耐えうるハイクオリティな描写力、サイズや重量面からも携行性の良さや取り回しの良さです。その結果、プロの写真家だけでなく、ハイアマチュアや「中判カメラ」の魅力を発見したアマチュアの人たちに支持されてきています。


ファッション写真やポートレイト写真での中判カメラの使用は、リチャード・アヴェドン氏のローライフレックスや、ダイアン・アーバス氏のハッセルブラッド使用の様に、中判カメラはファッション写真の世界でも使用されてきました。



ところがそこから生まれた写真の多くはFace to Faceで、被写体やモデルたちを正面からまっすぐに捉えたものや、それでなくてもモーションがある場合にはカメラの取り回しの悪さから撮影には不向きだったわけです。


その状況を一変したカメラがペンタックス1眼「中判カメラ」だったといわれています。1970年代初頭のことです。



『Haskins Posters』(1973)の裏表紙
Petaxを手にする若きサム・ハスキンス氏


ファッション写真集で、最初にペンタックス「中判カメラ」で撮影した写真家の一人は、1960年代に出版された写真集『Five Girls』(1962)や『Cowboy Kate』(1965)で世界的に知名度をあげていた写真家サム・ハスキンス氏です。上記の写真集はペンタックス「中判カメラ」はまだ開発途上で、実際の使用は『Haskins Posters』(1973)からでした。


『Haskins Posters』(1973)の表紙


 ペンタックス「中判カメラ」開発チームがハスキンス氏と出会ったのは、ハスキンス氏の生まれ故郷でもあるアフリカの地で、写真集『African Images』を撮影していた時。アフリカの地ではスタジオなどありません。戸外でアフリカの女性たちや静物を撮影するハスキンス氏は、持ち運びも容易にでき、カメラワークが軽快で、操作性に優れ、ハイクオリティの描写力があるカメラを求めていたのです。

そんなサム・ハスキンス氏のアフリカにおける撮影事情とカメラとの接点はなかなかに興味深いものがあります。それ以前のアフリカと写真で思い出すのは、1930年代に写真家マーティン・ムンカッチ氏がアフリカ・タンガニーカ湖(タンザニア)で撮影した湖水に向かって走り出す3人の黒人の少年の写真です。
この1枚の写真は、同じく青年時にライカを手に、アフリカに渡ったアンリ-カルティエ・ブレッソン氏の写真観に大きな影響を与えます。後の「決定的瞬間」もまたその延長戦上にあるといえます。





マーティン・ムンカッチ
「Three Boys at Lake Tanganyika」 1930 

 ファッション写真界には、その躍動的なアフリカの写真を撮ったマーティン・ムンカッチ氏の写真に刺激され強い影響を受けた写真家がいました。リチャード・アヴェドン氏です。
1950年代から60年代、「Move」とか「Smile」とモデルに声をかけ、静的なスタジオ写真に型破りなポートレイト写真、ファッション写真を生み出したアヴェドン氏の記憶にあったのは、ムンカッチ氏の「Hapers Bazaar」に載った海辺を走る女性の写真と、その海の向こう側から発っせられるアフリカの原始的なダイナミズムだったのかも知れません。
ちなみに「Dovima with Elephants」は、アヴェドン氏のファッション写真の最高の1枚になっています。



リチャード・アヴェドン
「Dovima with Elephants」 1955



用いたカメラは異なるものの、アヴェドン氏のスピリットはアメリカの片田舎からニューヨークに出て来たブルース・ウェバー氏に影響を与えています。おもにペンタックス6×7で撮影されたウェバー氏の代表する写真集『オー・リオ・デジャネイロ』は、これまで中版カメラではなかなか困難を伴ったアウトドアでのさまざまなヴァリエーションのショットに溢れています。なかでも海辺で少年を空中に放り上げる柔術家ヒクソン・グレイシー氏の躍動感溢れる写真はその最たるものでしょう。


 
Pentax中判カメラを愛機とするブルース・ウェバー 
写真集『オー・リオ・デジャネイロ』

 

 ペンタックス6×7を愛機とするファッション写真家については、スウィンギングロンドンの60sを体験したロンドンの写真家たち、デビッド・ベイリー氏やテレンス・ドノバン氏、ニューヨークでは、パトリック・デマルシュエリ氏やアーサー・エルゴート氏、80s、90sでは、ピーター・リンドバーグ氏、マリオ・テスティノ氏、カート・マーカス氏、スティーブン・マイゼル氏、そしてティム・ウォーカー氏にエディ・スリマン氏とトップフォトグラファーの多くが、銀塩、デジタルや機種は種々ですが、ペンタックス中判カメラのハードユーザーとなっています。


エディ・スリマン氏も中判Pentaxユーザー 


詳しくは、拙者も寄稿しています『Pentax Z』(2014 10月刊 玄光社)をご覧頂ければと思います。おもにペンタックス中判カメラで撮影された写真集について記しています。
現在、2号館アートフロア内ではガラス什器を用いて、ペンタックス中判カメラによって撮影された写真集やその関連書籍のコーナーを展開中です(2014年11月5日~11月25日までの予定)。先日ご来店されたマリオ・テスティノ氏がサインした写真集もご覧、ご購入頂けます。



 マリオ・テスティーノ 『リマ』 サイン入り

 
文 ブック・コンシェルジェ 加藤正樹

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