代官山 蔦屋書店 オフィシャルブログ
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レトロでモダンな木版画作品集 ルボーク・フェアラーグ社の出版物に注目!

2014年11月13日20:07
当店アートフロアで「レトロでモダンな版画作品集ーLubok Verlag ルボーク・フェアラーグ」出版物展が催されています。




Lubok Verlag社は、ニューヨーク、ロンドン、バーゼル、ベルリンなどのアートブックフェアで注目されている知る人ぞ知る出版社です。合成樹脂材を彫って版をつくりだすリノカット版画技法だけで刷られたヴィジュアルシリーズ本は、世界各地で新たな人気を掘り起こしています。









Lubok Verlagの出版社名にもなっているLubok- ルボークについて、簡単にご紹介致します。


Lubok- ルボークとは、17世紀半ばからロシアの民衆のあいだで流行しだした大衆版画「ルボーク」のことです。その安さとシンプルな表現スタイル、新しいテクニックをもちいて複製することが容易で、室内にかかげるアートワークとして長く重宝されつづけました。





20世紀初頭には、ロシア革命時のプロパガンダ・ポスターやロシア・アヴァンギャルドのデザインワークに影響を与えていたといわれるものの一つがこのルボークです。






ロシア・アヴァンギャルド・ポスター




ルボークは長いあいだ大衆の暮らしに浸透していた大衆版画ルボークのスタイルを、大衆労働者を革命へと煽動するために取り込んだ面もあったようです。

その後、ルボークは衰退しかえり見られなくなりますが、20世紀における伝統的な表現スタイルとして、民族装飾のパターンとして人々の暮らしのなかに浸透していきました。看板や広告、飲料やマッチ箱、工芸品や家財道具の装飾に、ルボークの表現スタイルがみられます。




Stepen Chambers 『LUBOK 6』 より



Lubok Verlag社が企画したのは、そうしたロシアの民衆の中で引き継がれてきた伝統的ルボークではなく、さまざまな国の表現者のなかにあらわれだしていた「新たなルボーク」でした。


そもそもルボークは、その古き歴史を遡れば、ロシアを飛び越えて、15世紀のドイツやイタリア、フランスでつくられていた木版や木彫りに源流をもつものです。

つまり500年の時を遡り、源流の一つに舞い戻るかのようにして、ドイツ・ライプツィヒの出版人によって新たな光を投げかけられたといえます。大衆版画「ルボーク」に起源する静かなムーブメント。これこそLubok Verlagが着目してみせたものでした。




Matthias Weischer  『LUBOK 3』 より




Andrzej Klimowski 『LUBOK 8』 より



抽象絵画の創始者となるワシリー・カンディンスキーも、絵画をはじめた頃や、後の「コンポジション」シリーズの制作はドイツ滞在時に制作するなどドイツとのつながりが濃いアーティストですが、カンディンスキーも若い頃ルボーク版画を100余点コレクションしていたことで知られます。

カンディンスキーはその初期に木版画を制作していますが、なかにはルボーク版画に影響を受けたものがありました。




1903年のカンディンスキーの木版画作品「Old Town」



ルボークのもう一端は、<現代のコミック>へとつながっているといわれます。シンプルな小説や寓話、昔話、そして安価でシンプルなつくり、ほとんどが画像によることから、シリーズで制作される時は、コミック・ストリップが想起されます。





Thomas Muller 『LUBOK 7』 より




Christian Brandl 『LUBOK 6』 より




現代のコミックの様に、ルボークが長い時代にわたって大衆の人気をえてきたのも、その題材の多様性にありました。聖書や昔話、寓話など宗教的物語から、戦争や災害、不思議な動物の絵、国内外の事件や出来事、日常の暮らしの一場面など、生活環境にみられるほとんどすべてが対象になっています。

もともと大衆のなかから生まれたルボークです。時をへて、かたちや表現をかえながら、再び大衆の中に帰っていくにちがいありません。木版画が奏でるなんともいえないあったかみと温もり。黒いインクが浸みこんだ紙の手触りとにおい。懐かしさのなかにある新しさ。新しいのに懐かしい。不思議な魅力に満ちています。








『Hasu Helga』 by Katharina Immekus 2007 500部限定




今回取り上げた画像はほんのわずかのものです。No1からNo9まで、Lubok Verlag社の企画者クリストフ・ルックへーベル氏が関心をしめし掲載にいたったアーティストたちの木版画は、想像以上のヴァリエーションと実験的な面白さに満ちています。どうぞこの機会にご覧になられることをお薦め致します。








文  アート・コンシェルジュ 加藤正樹



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