代官山 蔦屋書店 オフィシャルブログ
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ヴィンテージ:『The Protest Box』(Steidl)の制作背景。日本が世界で一番プロテスト写真集が多かった

2014年7月13日14:16

今日も、アジア各地で、南米で、アフリカで、東欧のみならず、世界中で、また日本においても、政治的、経済的、社会的なプロテストがなされています。


『The Protest Box』は、世界中でこれまでに刊行されたプロテストを主題にした絶版写真集の5冊が写真家マーティン・パー氏によって選定され、 一つのBoxへと組み入れられました。 

『The Protest Box』―テキストブック

もともとは写真集コレクターでもあるマーティン・パー氏の写真集コレクションからのもので、いずれも入手困難で、『The Japanese Box』(森山大道氏、荒木経惟氏、中平卓馬氏ら)のように各書は、ドイツの写真集マエストロ、Steidl氏によって、出版ファクシミリ版として制作されたものです。



         

本書付きのテキストで、ゲーリー・バジャー氏(マーティン・パー氏と共同制作した『The Photobook A History』の写真批評家)は、写真家ロバート・アダムス氏のクエスチョンからはじめています。

「悪(Evil)を写真で記録することでたしかな効果はあるのだろうかと」。

ロバート・アダムス氏は明快な応えを導きだしてはいませんが、ゲーリー・バジャー氏は、 世界各地で刊行されたプロテスト写真集をみるかぎり、写真家たちは、各自の強い信念と思いで、1冊の写真集をつくることで挑戦していることが分かってくるといいます。

『The Photobook A History Ⅲ』


じつはこの世界各地の代表的プロテスト写真集だけを集めたものを制作しようというアイデアは、マーティン・パー氏とゲーリー・バジャー氏が、現在第3巻まで刊行されている『The Photobook A History』を編集制作する過程で生まれてきたものだといいます。

数多くの世界の優れた写真集をみていると様々な写真のムーブメントがあることに気づき、その大きな一つがプロテストの写真集だったというわけです。

『The Photobook A History Ⅰ』


興味深いのは、2人が認識したのは、世界で最もプロテストをテーマとした写真集が刊行されているのは、日本とラテンアメリカだということです。 

とりわけ1国とすれば、日本が最も多かったという事実です。 

これは広島、長崎に投下された原子爆弾とその後の被害が一つの中心点になっているようです。
      
各地域とも、平均すれば1971〜1974年に最もプロテスト写真集が集中的に刊行され、まさに日本から選ばれた北井一夫氏の『三里塚』(ノラ社)も、1971年の刊行です。


北井一夫氏写真集『三里塚』より

 『The Protest Box』収録の5冊のプロテスト写真集を簡単にご紹介致します。

・『三里塚』初版1971年刊 北井一夫氏 
日本から選定されたのは、後に写真家ジョン・ゴセージ氏が新装英語版を制作した写真集『抵抗』で知られる北井一夫氏の『三里塚』(ノラ社)。北井一夫氏は、この三里塚闘争の反体制グループの地に、自ら入りこんでドキュメントしました。三里塚という地名は、成田国際空港建設にまつわる闘争のシンボル的言葉です。


・『América』初版1970年刊 Enrique Bostelmann   Siglo XXI Editores, Mexico City
エンリケ・ボステルマン氏は、60年代からラテンアメリカ各地を旅しているメキシコの写真家です。とくに工場労働に送り込まれるインディアンの暮らしや搾取についてルポルタージュしています。

中央の白い表紙が見える写真集

 『Algeria』初版1961年刊  Dirk Alvermann 
ダーク・アルバーマン氏は、1961年ベルリン生まれです。イーストベルリンにおける移民のアルジェリア人の現状についての写真でドキュメント。ラディカルなブックデザインは、ロシア映画のポスターなどからインスパイアされたもの。



・『Immagini del No』 初版1974年刊 Paolo Mattioli and Anna Candiani 
小さなフォーマットの写真集は、フェミニストムーブメントから反ファシズムなどイタリアでの様々な様相のプロテストをドキュメントしたものです。とくに離婚を認めた判決に対するプロテストを追っています。




・『Para verte major, América Latina』初版1972 年刊Paolo Gasparini 
パオロ・ガスパリーニ氏は、イタリア生まれながら人生の大半を南米カラカスの地で暮らした写真家。資本主義と共産主義の衝突に揺れるラテン・アメリカをルポルタージュ。




この5冊は、マーティン・パー氏とゲーリー・バジャー氏が、プロテスト・ムーブメントが、1冊の本のかたちに見事に「翻訳」されたものとしています。
『The Protest Box』の成立過程や背景、そして内容もさることながら、
グラフィク面での優れている各写真集どうぞ一度ご覧になってみて下さい。現在当店2号館アートフロアに1冊、在庫しております。


アートコンシェルジュ 加藤正樹


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