~代官山 蔦屋書店文学コンシェルジュが、とっておきの一冊をご紹介します~
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『フーガはユーガ』
伊坂幸太郎/実業之日本社
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というくらい、「双子を出したら入れ替わる」はミステリのセオリーあるいは「こすり倒し」みたいなものだが、本書はさすが伊坂作品、荒唐無稽な工夫がある。その仕組みの無理さかげんを1個1個つぶしていき、こういうルールだ、と読者にちゃくちゃくと飲み込ませていくのが、伊坂さんのまじめさと巧妙さである。
「僕が喋ることには嘘や省略がたくさんあります」――
物語は「僕」がテレビの制作会社勤務の男とある動画について話すシーンから始まる。新番組のために変わった動画を探していた制作者は、不思議なものを入手した。加工された跡がないのにおかしなことが起こっているのである。制作者は映っていた人物をつきとめてファミレスに呼び出し、説明を求める。こうして「僕」と、双子の弟のお話がスタートする。
虐待、殺人事件、変態的快楽の犠牲者など、ストーリーはハードだ。そこにしょうもないギャグというかフレーズ(例:資産家について、「シサンカ シサンカ、シサンジュウニ」)がはさみこまれ、読者は救われるように弛緩、脱力しながら、物語についていく。
そして希望は“僕が喋ることには嘘がある”という「僕」自身のコメントだ。トリッキーで有名な伊坂作品を読み進むのだからファンはぜったいこの一言を忘れない。でも、双子や周辺の人々の境遇や運命を目の当たりにするうちに「どれが嘘かを見抜いてやる」というミステリ読者としての矜持は飛んでいき、「これは嘘であってほしい!」「ここは本当であれ!」と、祈りに似た気持ちでぐーっと作品に入り込む。
ラストは、「私の願いで作品の流れが変わりました」と言いたいぐらい、手に汗握っている。あと、「そうだったらいいのに!いやあやっぱり無理か!」も登場人物とともに体感することになる。スポーツでひいきのチームを応援している時のような、熱量と集中と放心と爽快感。これぞ伊坂作品の真骨頂。最新作にして最高傑作がまたひとつ。
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