~代官山 蔦屋書店文学コンシェルジュが、とっておきの一冊をご紹介します~
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『七月に流れる花』
恩田陸/講談社タイガ文庫
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恩田陸/講談社タイガ文庫
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主人公の大木ミチルは、季節はずれの転校生。六月にこの町に来て、友達をつくれないまま終業式を迎えてしまった彼女は、中一の夏休みをひとりで過ごすのかとがっかりする。しかしこの日の下校途中に起きた不思議なできごとの後、彼女は正体不明の主から「夏のお城」に招かれる。
招待状の力は絶大で、母親は何か知っているようだったが説明なしで娘を送り出した。そっけなくカードに書かれていたとおり、宿題と最低限の荷物だけ持ち、指定の列車に乗り、臨時停止した場所で降りると、ほかに少女が五人いた。そのうちの一人は、ミチルと同じクラスの頭のいい美少女・佐藤蘇芳だった。
大人はいない。お堀と土塀に囲まれた城で、少女六人だけの「林間学校」が始まる。そこには奇妙な決まりごとがあり、他の子たちは黙って従うがミチルは聞かずにはいられない。
なぜこんなルールがあるのか、そもそもどうしてこの六人なのか、迎えが来るまでここにいなければならないというが、どうなったらこの「学校」は終わるのか。そのたびにほかの皆は目で何かを語り合い、辛抱強さ、痛々しさ、怒りと愛情の入り混じったような表情を浮かべてこちらを見る。ミチルは自分が愚か者になったような気持ちになる。
この「私だけが世界の秘密を知らず、バカみたいで、みっともなく、恥ずかしい」という思い。これは少女が大人になる時感じる不安、怯えではないか。
女性なら経験があるだろう。いつのまにか周りはお化粧上手になり、特定の男の子と親密になる方法を知っていて、親や先生の信頼を保ちつつ裏で彼らの想像していないことをする。大人のゲートに手をかけている皆は、いつ、誰に教わったの?なぜ私は知らないの?答えを得るためには疑問を発しなければいけないけど、なんで、どうして、と繰り返すとますます子供じみてしまうという自覚もある。十代の頃、悲鳴をあげたくなった人は多いはず。
『蜜蜂と遠雷』で直木賞と本屋大賞をW受賞した恩田陸が、お城の謎を通して「少女」の核を描いた傑作。なお土塀の外には「少年たちのいるところ」があり、そこでなにが行われていたかは、『八月は冷たい城』に描かれている。まもなく刊行。乞うご期待!
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