2014年8月23日

写真家長濱治氏が撮っ伝説的写真集『地獄の天使』ーヘルズ・エンジェルズ写真集のこと

アウトローの世界を撮った「日本の写真集」をご紹介致します。


すこし思い出せば、倉田精二氏の写真集『Flush Up』(Zen Foto Galleryより2013年に新版が出版された)や渡辺克巳氏の『新宿群盗伝』、最近では、横尾忠則氏の『憂魂、高倉健』(平成21年に完全復刻)、暴走族を撮った吉永マサユキ氏の『族』などがあります。写真集好きなればきっとご覧になった方も多くいらっしゃることとおもいます。
 
 
写真集『ヘルズ・エンジェルズ』(帯付き 8.15現在、当店在庫あり)




それが海外での撮影となった写真集となるとそうはありません。まず命にかかわります。もしスナップで撮れても発表の段階で問題が生じるでしょう。命が二つあっても足りなくなります。

とろこが唯一そんな写真集があるのです。噂や何かで聞いたり読んだりしたことのある方でも、出版された1980年代にご購入していなくては、平成の世になってからは現物を直にご覧になる機会は相当に限られていました。すでに久しくレア本として、10万前後の高値がつくようになっていたためでもあります。


写真集『ヘルズ・エンジェルズ』より


その伝説の写真集とは、写真家・長濱治氏の『地獄の天使 1968~1980 New York・San Francisco』(勁文社 1981年) 。長濱治氏、魂を賭しての渾身の写真集です。

「ヘルズ・エンジェルズ」。1960年代のカウンターカルチャーの象徴で、米国の写真家でも、継続的に彼らと面と向かって、インサイダーとして彼らと日常をともにし同行し撮った者は存在しません。

それがどうして日本からやって来た、まだ20代のいち写真家がやってのけることができたのか。それは長濱治氏が出版した写真集の系譜をみるとその理由が実感されます。まずその前に「ヘルズ・エンジェルズ」です。


写真集『ヘルズ・エンジェルズ』より


ヘルズ・エンジェルズの正式名称は、「ヘルズ・エンジェルズ・モーター・サイクル・クラブ」。そのルーツは、前世紀の1847年まで遡ることができるといいますが、モーター・サイクル・クラブとしての正式な発足は1957年。

長濱氏は、1960年代初期にその存在と名前を知ったとのことで、正式発足から5年後程。その後、写真家になって1970年頃にはヘルズ・エンジェルズの撮影を意識しだし、イースト・ヴィレッジにあったニューヨーク・エンジェルズのアジト(N.Y.支部)を訪問し、ボディガードたちに何度も顔をうっています。


当店でのイベントで長濱治氏から送られたメッセージとサイン



撮影は、1980年の猪突猛進的なアグレッシブな行動に帰されるものではなくものではなく(20代の長濱治氏は必ずしも怖いもの知らずではなく不安はもちろん慎重でさえあった)、10年余にわたる用意周到さがあったといいます。

それは熱意のみに収斂されるものではありません。これまでに出版された長濱治氏の写真集のラインアップをみてみましょう。写真集に共通するものは、普通ではない「異質」で、「特異」なエネルギーをもった人間たちです。長濱氏によれば、摩訶不思議なものへの憧憬は、少年時代からの強い「習癖」だったといいます。

狂気と勇気が紙一重になって敢行された「ヘルズ・エンジェルズ」撮影は、長濱氏の少年時代にその心根がありました。


写真集『ヘルズ・エンジェルズ』より


ブルースとの出会いは、終戦後、小学生の時に、視聴しだした米軍放送のFENを通してでした。終戦を迎えた時、名古屋近郊の小牧空港近くで目にするようになったアメリカ兵の存在が長濱少年の関心をとらえたことが発端でした。異質な存在のアメリカ兵や、米軍放送から流れるサウンドに興味が湧いたといいます。


写真集『マイ・ブルース・ロード』より


少年時代よりずっと思入れ深いブルースをようやく撮りだしたのは、47歳の時。以降4年に10回の撮影取材。ミュージックロードとして知られるハイウェイ61を中心に惚れ込んだブルースマンや偶然に聞き及んだブルースマンたちを撮影しました。

そして写真集『マイ・ブルース・ロード』となって発表されました。






『魂の十字路』は、小説家北方謙三氏とのジョイントです。ブルースを題材にした写真集で、米国南部ミュージックロードを取材した時の写真がもちいられています。北方謙三氏は一度、長濱氏のブルースマンの取材撮影に同行し同志となります。




写真集『猛者(もさ)の雁首』は、もう1冊の魂の十字路。
若松孝二監督、深作欽二監督、唐十郎氏、開高健氏、北方謙三氏、北野武監督、山崎努氏、生島治郎氏、石津謙介氏、日野皓正氏、山下洋輔氏、横尾忠則氏、長友啓典氏、山本寛斎氏、丸山健二氏、辺見庸氏、江夏豊氏、立木義浩氏。。。


 




彼等もまた狂気と勇気が紙一重になった、「異質」で「特異」なエネルギーをもった人間たちです。
昭和生まれの硬派な猛者(もさ)たちだけを、しかも彼等の雁首(がんくび;首から上の顔)だけを狙った痺れるポートレイト集は他にない。これまた異質な写真集といえます。男が見て惚れる男のポートレイト集。ぐっときます。




最後に紹介するのは、今年2014年初夏に発売された『THE TOKYO HUNDREDS 原宿の肖像』です(Directed by NEIGHBORHOOD 20th ANNIVERSARY ISSUE)。

裏原NEIGHBORHOODのブランドムック「NEIGHBORHOOD MAG.」(2005年〜)に、“AGE OF APOCALYPSE”として長濱治氏が連載していたポートレイトの写真集化です。それは同時に、世界的にも特異なエネルギーを発していた裏原宿の黙示録的、記念碑的ポートレイト集になっています。

髙橋五郎氏 『THE TOKYO HUNDREDS 原宿の肖像』より


その震源地だった「goro’s(ゴローズ)」の髙橋五郎氏をはじめ、藤原ヒロシ氏、川勝正幸氏、野口強氏、高橋盾し、北村信彦氏、山本康一郎氏、小泉今日子氏、島津由行氏、馬場啓介氏、KAWS氏、NIGO氏、新田桂一氏、村上淳氏、野村訓市氏…..ら、総勢100人が放つ特異なエネルギーが2次元のペイパーにプレスされています。

長濱治氏のセルフポートレイト 『THE TOKYO HUNDREDS 原宿の肖像』より


『THE TOKYO HUNDREDS 原宿の肖像』をご覧になった方、ご購入された方は、『地獄の天使』はもちろん、写真集『猛者の雁首』や『My Bruce Road』をぜひともチェックを入れて頂きたいところです(当店に在庫有り。8.15日現在)。

こうしたポートレイト集が、長濱治氏という一人の写真家からどのように生まれてきたのか。長濱治の魂によって、写真という光学的ツールによって、何が充填されたのか。一連の写真集を通じてみえてくるのは、見えない「魂の十字路」にちがいありません。


アートコンシェルジュ 加藤正樹

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