2015年10月16日

 「ヘリテージ・フェア」開催と【アートブック遺産】

現在、代官山蔦屋書店各フロアで「ヘリテージ・フェア」を開催中です(2015 10/1~10/20)。

2号館アートフロアでは、「アートブック遺産」と題し、語り継がれてきた写真集を中心に、これからも語り継がれるだろう写真集、アートブックをご紹介しています。



これまで独自の歴史を築いてきた日本の写真集は、今や世界の写真史の歴史のなかで欠かすことのできない存在です。
細部に宿る美しさ、何十年たってもインクが匂いたってくるような細やかな印刷技術。こだわりぬいた造本、エディトリアルワークとブックデザイン。本を収める外函へのこだわりと深い味わい。独特な手触り感、その全体から温もりも伝わってきます。


写真家と装丁家、編集者の感性の結晶。時代に刻印され、時間を超える存在感と価値。それがすべてがコレクタブルなブックの魅力となって私たちを魅了します。

一冊一冊に歴史がある”アートブック遺産”を手にとって、その価値を感じて頂ければと思います。
 (尚、書籍は、「ヘリテージ・フェア」終了後も、アートフロアでご覧頂けます)



【Heritage Books】   新輯版『薔薇刑 – Ordeal by Rose』1971

新輯版『薔薇刑 – Ordeal by Rose』より
日本の写真集として、その内容とクオリティにおいてここ半世紀を通じ世界で最も知られている日本の写真集の1冊といえる『薔薇刑- Killed by Roses』の新輯版です。
初版の装幀は杉浦康平氏ですが、新輯版は横尾忠則氏によるもので、斬新なデザインワークと造本が、『薔薇刑- Killed by Roses』とは独立したオリジナルなインプレッションを与え、近年海外でも広く紹介され人気と評価、価格も含め高騰しています。
生前の三島由紀夫氏という肉体を被写体としたことで、氏の身体表現、写真家・細江英公氏の写真表現、横尾忠則氏のアート&デザイン表現と、その見事なまでの三位一体感が、本書の類稀れなる精華となっています。
協力モデルは土方巽氏、江波杏子氏、土方婦人の元藤燁子氏。
(函付き/ダンボール使用輸送函欠け)



【Heritage Books】 『日本』 東松照明 1967

『日本』 東松照明 より
戦後日本の姿、その空気と光が激しく焼きこまれた東松照明氏の初期代表作。写真家が大きな思想をレンズに受け止めていた20世紀半ばの作品です。
『〈11時02分〉NAGASAKI』の翌年の刊行となった本書は、東松照明氏が自らつくった版元の写研から刊行されました。この写研から、『サラーム・アレイコム』、『おお!新宿』『沖縄に基地があるのではなく…』と自費出版写真集の名作が次々に生み出されます。高度成長期に突入した日本のもう一つの姿がここにあります。



【Heritage Books】 『鴉』 深瀬昌久 初版 1986 

『鴉』 深瀬昌久より
出版から20年以上たち、国内のみならず、欧米、そして近年では東アジアでも重要な写真集として注目を浴びるようになった深瀬昌久氏の代表作。写真集『遊戯』『洋子』刊行後、妻の洋子と別れた深瀬氏は故郷の北海道へ。極寒の雑木林のなか暗闇の中で光る烏の眼。夜は「自身との対峙」を呼びます。
 「家族」、そして「私とは何か」へ徹底的なこだわりをみせた深瀬氏の最高傑作が、夜の闇から生まれ落ちたのは偶然ではありません。



【Heritage Books】  『鎌鼬』 細江英公 1969

 『鎌鼬』 細江英公 より
日本、そして世界の写真史のなか、60年代に刊行された写真集として『薔薇刑』とともに、“文化遺産的写真集“として広く知られる写真集です。
本作品集は、世界にその名を知らしめた暗黒舞踏(Butoh Dance)の創始者・土方巽氏と、当時36歳の油が乗り切った写真家・細江英公氏、そしてグラフィックデザイナーの田中一光氏が三位一体となってつくりあげた名品です。 
鮮烈な青色の片観音開きのページを繰ると、記憶と風の中で一瞬にして現れる鎌鼬が、土方巽氏の身体をかりて踊りでてきます。 
1960年代後半の熱気が1冊の本に体現され、極められた造本も、世界のクリエイターに影響を与え続けています。



【Heritage Books】  『来るべき言葉のために』 中平卓馬 1970


日本の現代写真において、最もラディカルに思想した中平卓馬氏の初の作品集として知られます。この映像表現が新たな言語表現を将来するのか、内なる詩人の先鋭的問いかけでした。
森山大道氏とともに日本の現代写真に大きな転換をもたらした写真家として、そのラディカルさの極地を冒険した写真集として、その名を世界の写真史に残しました。
この3年後に出版した『なぜ、植物図鑑か』で、既成概念を破る「アレ、ブレ、ボケ」の作風を一転させ、日常の「きわめてよい風景」に向かっていくことになります。2015年、死去。



【Heritage Books】 『The Europeans』 アンリ・カルティエ=ブレッソン 1955 

『The Europeans』 カルティエ = ブレッソンより
世紀の写真集『決定的瞬間』と同様、革命的小型カメラ・ライカを「眼の延長」として使い込んだカルティエ = ブレッソン氏の代表的作品集として知られます。ブレッソン氏は本作品集でヨーロッパ人とは誰か、何を意味するのかを問いかけました。1930年代〜40年代にかけスカンジナビア諸国からイベリア半島、アイルランドから東欧(ロシアも)まで、大陸から半島、島々までを旅した写真で構成されています。
EU連合が生まれる半世紀前に各国の相違以上にヨーロッパのアイデンティティが共通する証拠を探る旅でもありました。
1998年に40年余ぶりに、1920s〜1970年初頭まで時代を拡張し、新たな写真も加えてコンパクトなサイズで同名の作品集が刊行されています。初版 表紙イメージ : ホアン・ミロ  



【Heritage Books】  『Josef Sudek』 ヨセフ・スデク 1956

  『Josef Sudek』 ヨセフ・スデク より
20世紀の東欧を代表する写真家として写真史にその名を刻まれる「プラハの詩人」と呼ばれるヨセフ・スデク氏の初期の代表的作品集の1冊です。
第一次世界大戦での負傷から右腕を切断されたスデク氏ですが、カメラを改造して撮影されたプラハの町のパノラマ撮影やゴシック建築や静物の美しいモノクロームの撮影、そして自宅の庭に降り注ぐ光の詩情あふれる写真を撮りつづけました。
本作品集は、スデク氏50代の時に出版された本作品集は、世界的に高く評価されています。



【Heritage Books】 『The Americans』 ロバート・フランク 1959

  『The Americans』 ロバート・フランクとジャック・ケルアックとの『Pull My Daisy』
世界の写真集史のなかでも極めて重要な位置にあり、荒木経惟ら後世の写真家たちに大きな影響を与えたロバート・フランク氏の記念碑的写真集です。
ロードトリップで撮影された2万8000ショットはライカで撮影され、そのうち83枚が本作品集に厳選されています。 本作品集はアメリカ版初版(Grove Press)ですが、フランスのデルピエールから出版されたものが1年早く、「Americans」の実際の初版ではありますが、本作のアメリカ版初版は、ビートジェネレーションを先駆けたジャック・ケルアック氏の序文を含み、その後の数多くの復刻版の原点となったことから、もう一つの事実上の初版とも言われています。ちなみにフランス・デルピエール版にはヘンリー・ミラー氏やウィリアム・フォークナー氏、ジョン・スタインベック氏らの一文が寄せられています。
『On the Road』(1958)が出版され一躍名を知られることになったジャック・ケルアック氏とは、映像制作でも仕事を共にすることになります。アルフレッド・レスリー氏と制作した映像作品『Pull my Daisy』は、ケルアックのテキストを入れたブック(1961)となりビートの激しく高速のダイナモの如き映像となっています。『The Americans』とはブラザーの様な関係です。



【Heritage Books】  『A Season in Hell : 地獄の季節』 1986 

『A Season in Hell : 地獄の季節』 より
19世紀の天才詩人アルチュール・ランボー氏と20世紀の写真家ロバート・メイプルソープ氏が時を超え、紙上で出会ったレジェンダリーな書物。『地獄の季節』は、1873年ランボー18歳の時に自費出版で自らの手で唯一世に出した詩的自伝の書です。表紙デザインはその時の伝説的出版物のデザインがもとにされています。作品にはハンドメイドのエッチングペイパーに印刷され8枚のメイプルソープ氏の写真、ランボー氏を憧憬するパティ・スミス氏の肖像画1点を収録。
赤色のモロッコレザーで仕立て、黒クロス函入り。フランス語と英語併記による詩。
翻訳者ポ-ル・シュミットとロバート・メイプルソープ両者のサイン入り。 Limited to 1000 copies  

上記掲載以外にも、知的関心を押し広げてくれるヴィンテージ写真集、アートブックを取り揃えております。
当店にご来店の際には気になった、”文化遺産”的写真集、アートブックをごゆっくりご覧になって頂ければ幸いです。



ブック・コンシェルジェ 加藤正樹

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