2015年7月24日

若尾文子という女優をご存知ですか?

店頭で流れていた予告編を見ていた母娘ふたりの、娘さんのほうが『誰この女優さん、凄く綺麗じゃない!』と一言。それに対して、母の方は『貴方知らないの?ほらソフトバンクのお父さん犬のお母さんの人よ』とコメント。

う~む、間違ってはいないけれど、若尾文子氏をそれだけで言い切ってしまってはあまりにも切ないというもの。という訳で女優・若尾文子氏の魅力について、ちょっとだけお話させて下さい。



若尾氏は、映画がまだ日本人の娯楽の王様だった1950年代に映画界入りをし、大活躍をされた女優さんです。
その頃、俳優たちは映画会社に専属という形で、他社の映画に出ることはありませんでした(高峰秀子氏のように専属していない俳優もいましたが)。






若尾氏は大映という映画会社の所属で看板女優でした。
同じ大映という映画会社には市川雷蔵氏、勝新太郎氏という2人の看板男優がおり、日本映画界全体を牽引していました。女優陣は若尾氏の他に京マチ子氏、山本富士子氏などが主役クラスとして活躍していました。ちなみに勝新太郎夫人となる中村玉緒氏も大映の女優でしたので、いわゆる職場結婚ということになるのでしょうね。


昨年、映画専門誌キネマ旬報が特集した『映画遺産 日本映画男優・女優100』で若尾氏は女優部門で、高峰秀子氏に次ぐ第2位でした。
その二人に共通して言えることは、多くの名監督たちに愛された女優であったという点ではないでしょうか。高峰氏は成瀬巳喜男氏、木下恵介氏、小津安二郎氏、稲垣浩氏、五所平之助氏といった監督たちに、若尾氏は川島雄三氏、増村保造氏、溝口健二氏、市川 崑氏、山本薩夫氏といった名監督たちにです。

映画男子たちが若尾氏の映画を見て、ひと目でやられてしまう原因。それは妖艶さというか、その色っぽさです。デビューしたての頃は可愛らしい女性像も演じていましたが、1960年代に入ると主に川島雄三氏、増村保造氏の両監督と組んで、魅力的な大人の女性を演じ男性ファンの視線を独り占めにしました。


1962年の「瘋癲老人日記」は、そんな代表作の1本です。大映の看板番組のひとつ「狸御殿」シリーズで有名な木村恵吾監督作品で、若尾氏とは1959年に「初春狸御殿」(共演、市川雷蔵氏、勝新太郎氏!)で組んでいます。原作は谷崎潤一郎氏で、谷崎文学は若尾氏とは相性が良いのか「卍」「刺青」も主演映画の代表作となっています。

山村聡氏演じる老人は脳溢血の後遺症を持ち、次に発作がきたらあぶない状態でありながら生きながらえることが出来たのは、若尾氏演じる息子の嫁の足に魅せられ、その足に触りたいという欲望のおかげだったという、人間の奥深い生と性を描き出したトンデモナイ映画で、日本映画最高のフェティッシュな作品です。


同じように女性の足の美しさに対しての賛美を描いたフランス映画はフランソワ・トリュフォー氏の「恋愛日記」がありますが、おそらくトリュフォー氏はこの映画の影響を最大限に受けていたとしか思えません。また、それだけこの映画での若尾氏は、老人を翻弄しながらも生き長らえさせる『美しさ』と『エロティシズム』(=生命力)に満ちているのです。


この「瘋癲老人日記」をはじめとした若尾氏出演の映画60作品が上映される『若尾文子映画祭』が現在、角川シネマ新宿にて絶賛開催中です。そして代官山 蔦屋書店 映像フロアでは、この映画祭開催を記念して『若尾文子特別コーナー』を設置しています。

実は「瘋癲老人日記」は、今までレンタルで見ることが出来ない販売専用商品でしたが、今回の映画祭記念として無事レンタルができるようになりました。他にも4作品「雁」、「越前竹人形」、「砂糖菓子が壊れるとき」、「女の小箱より 夫が見た」が初レンタル化になり、より若尾氏の魅力をご堪能いただけることになりました。
ぜひ、一度、店頭でご確認ください!


映像シネマコンシェルジュ 吉川 明利

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