2014年6月16日

ヴィンテージ書籍の毎月の新入荷をお知らせいたします - 『Whole Earth Catalog』他


2号館アートフロアでは、ヴィンテージ書籍(写真集/ファッション書/アートブック)の毎月の新入荷を展開する場所を設置いたしました。場所は、窓際にあるガラス什器のうちの一つで、旧山手通り側の入口から入って3つ目のガラス什器です。2号館お立ち寄りの際には、「今月は何が入荷しているのやら…」と、覗いてみて下さい。
(*新入荷分が多い時は、一部途中入替あり。同場所でフェアなどがある際には展開書籍が代わることもあります)


今月新入荷ヴィンテージ書籍をご紹介致します。

①『Whole Earth Catalog』1970 Spring Issue

 まず最初にご紹介するのは、1968年にスタンフォード大卒(バイオロジー専攻)、スチュアート・ブラント
 によって創刊された第1号から第10番目の俗に「アンドロメダ星雲」号です。表紙にアンドロメダ星雲と
 クエスチョンマークがあしらわれ、今日では米国西海岸でも入手し難たい1冊(しかもコンディション良
 し)。 Spring Issueとなっている様に、この頃は季刊で刊行されていました。

 いまあらためて米国西海岸が諸々の文化フィールドで注目を浴びていますが、この『Whole Earth 
 Catalog』が 今なおその価値と輝きがおとろえないのはどこにあるのでしょう。

 まずは、今の時代につながる編集コンセプトです。『Whole Earth』というカタログのネーミングにもあら
 われているように、第一には「地球環境」を視野に入れたこと、その上で「個人」が自ら決断することを
 ヘルプするためのツールや情報、アイデアを供給する情報カタログだったことです。
 しかも掲載されたすべての実用的ツールを低価格で購入することができ、そのカテゴリーが時代を先取
 りしてい るものであったことです。




 □Contents/カテゴリーは以下の通り
    1) Understanding Whole System
        2) Shelter and Land Use
        3) Industry and Craft
        4) Communications
        5) Community
        6) Nomadics
        7) Learning

 1) のUnderstanding Whole System(全体のシステムを理解する)とは、地球史上はじめて「宇宙
   に浮かぶ地球の姿」を表紙に載せた出版物の重要な起点となるカテゴリー。
スチュアート・ブラン
   トは、アポロ計画が実施された1966年、NASAに対して、
宇宙から撮られた地球の映像を公開す
   るように運動を起こした張本人。

   同誌をどれほど革新的、確信犯的に、編集したかがわかります。荒涼とした月面の向こうに生命
     が満ちた青い地球をとらえた写真が撮られたのは1968年のアポロ8号の時。『Whole Earth Ca-
     talog』創刊の年でした。


 

                                            『Whole Earth Catalog』1970 Spring Issueの一頁


 全人類の思考と感性を地球史上、写真史上、もっとも変換させただろうといわれる「写真」。その写真を『Whole Earth Catalog』は、表紙に掲げつづけたのです。


スチュアート・ブラントは、兵役を終えた24歳の時、サンフランシスコ・アート・インスティテュートでデザインを学び、さらにサンフランシスコ州立大で「写真」をも学んでいました。スタンフォード大での「生物学」、そして「デザイン」「写真」、さらにはLSDの合法的科学実験、それらすべてが『Whole Earth Catalog』の制作に流れ込んでいきます。


 単に学校で「写真」を学んだだけでは到底、「宇宙に浮かぶ地球の写真」へのこだわりは生じてはこないでしょう。スチュアート・ブラント自身、ヒッピーカルチャーを体現していました。ヒッピーコミューン「メリー・プランクターズ」のリーダーにして『カッコーの巣の上で』の原作者ケン・キージーらとサイケデリック革命をおこそうとしていたオルガナイザーの一人でもありました。


  『Whole Earth Catalog』1970 Fall Issueの一頁

 4) Communications、5) Community、6) Nomadics(遊牧・放浪・移住生活)のカテゴリーも、そうしたアクティヴィストとしての活動と思考のなかから生じていたものです

 ビートルズの映画 「マジカル・ミステリーツアー」のバスの冒険譚は、ヒッピーコミューン「メリー・プランクターズ」のシンボル的存在で、LSDを全米各地に広めようとサイケデリックに彩られた「FURTHUR号」というバスから発想をえたものです。


 ちなみにこのサイケデリックバスのドライバーをしていたのが、アレン・ギンズバーグやバロウズ らビート・ジェネレーションたちに多大な影響を与えたニール・キャサディ。 
 ニール・キャサディとは、ジャック・ケルアックのあの『路上ーOn the Road』の登場人物ディーン・モリアティのモデルだった人物です。

          
 
   『Whole Earth Catalog』を創刊頃のスチュアート・ブラント
                        
 スチュアート・ブラント自身も、1968年に『Whole Earth Catalog』を創刊するまで、クールなツールや教材を自らトラックを運転し「移動販売」しています。つまりNomad的な日々を送っていたのです。
      
 現在、『Whole Earth Catalog』のバックナンバーのコンテンツは、ウェブページでも見ることができますのでアドレスをご紹介しておきます。 http://www.wholeearth.com/index.php
  
 『Whole Earth Catalog』が創刊された1968年は、  地球のカルチャーや人類の意識が一変し新たなステージに入りこんだ年とされています。
その変化を体現した『Whole Earth Catalog』は、 人類情報史にとって極めて重 要な情報ツールでありコミュニケーションの方法でした。

 Appleの故スティーブ・ジョブズが、スタンフォード大で後年に記念スピーチをおこなった時に、学生たちに贈った言葉、「Stay hungry, Stay foolish!」は、 『Whole Earth Catalog』の1974年の(とりあえずの) 最終号『The Last Whole Earth Catalog』の裏表紙 のメッセージからのものだったことは皆さんもご存知かとおもいます。 


 『Whole Earth Catalog』が創刊された1968年は、スティーブ・ジョブズはまだ13歳。スタンフォード大学があるサンフランシスコのベイエリアに住み、後に『Whole Earth Catalog』の熱心な読者になっていきます。


 「自分だけの個人的な力の世界が生まれようとしているー個人が自らを教育する力、自らのインスピレーションを発見する力、自らの環境を形成する力、そして、興味を示してくれる人、誰とでも自らの冒険的体験を共有する力の世界だ。このプロセスに資するツールを探し、世の中に普及させるーそれがホールアースカタログである」
( byスチュアート・ブラント/『スティーブ・ジョブズ: The Exclusive Biography』  講談社 p.107)

  『Whole Earth Catalog』1970 Fall Issueの一頁


  アップルプロダクツは、「ギークの世界(技術オタク)」と「ヒッピーの世界(カウンターカルチャー)」が、分ち難く織り重なった時にはじめて誕生したものといわれています。スティーブ・ジョブズが引用した『The Last Whole Earth Catalog』は、なんと「Electronic edition」と呼ばれている号でした!

 2つの世界を取り結んでいく。そのためには、7) Learning が重要になります。個人が自らを教育する力、そして自らの環境を形成する力。さらに誰とでも自らの冒険的体験を共有する力....

 見まわしてみれば、そうした自らおこしていく「力=パワー」が試され、たえず磨かれなければ生きていけないような世界の中に私たちは生きています。自らのインスピレーションを生み出しつづけ発見するには、内なるパワーがかかせません。



  『Whole Earth Catalog』とは、癒しを求めて大地に触れ自然と交わり自己を回復すればいいよね、とするぬるいものでは決してなく、自らの環境を自ら形成していく、自己教育していき、個人的な力で生み出す世界がまずあってからの「共有」という、目標にロックオンするパワーと意識がつねに試されるそんなメディアだといっていいかもしれませんネ。


 つねに刺激しつづけら、たえずはっぱをかけられる、『Whole Earth Catalog』は、まったく隅に置けないメディアなのです。こうしたペーパーメディアが1冊でも家やオフィスに置かれ、日々意識されつづければ、意識はきっと大きく変換されずにはおかれないでしょう。「ストーンパワー」ならぬ「ブックパワー」を感じられる。
『Whole Earth Catalog』は、あなたの部屋やオフィスのパワースポットになるにちがいありません。


アートコンシェルジュ 加藤正樹

-----------------------------------------




eventmail_bnr.jpg