「写真は私である。」
荒木経惟は常々語っており、これまでの行為がえがきだした軌跡のすべてが、それを裏付けている。
そして、こうも語る。「写真は被写体と時間がつくるもの」
「空間を撮ってるんじゃない、時を撮っている。時をフレーミングしているんだ」とも。
東京の路地を歩きながら。タクシーのウィンドウから。自宅のバルコニーで...あらゆる場所が写場となり、
シャッターが間断なく切りつづけられる。
風景を。空を。怪獣やアンティークドールやオブジェたちを。人々を。そして、女性を。
どのような被写体に向かうときも、渾身のエネルギーが注ぎこまれる。
人生そのものが写真と同化し、脈打つように作品が生み放たれていく。
コンパクトカメラ。35ミリ一眼レフ。6x7...瞳が瞬きをするように、さまざまなカメラのファインダーを開閉させる。
そのひとつに、インスタントフィルムカメラがある。ポラロイドカメラは、荒木の愛機のひとつである。
ポラロイドがフィルムの生産から撤退してのち、機械と職人をひきとり、
アナログインスタントフィルムの存続にいどんだ有志たちがいた。
カメラに装填されたのは、現像機能が、気温や湿度などの環境とともに揺らぎ変幻する、新生インスタントフィルムである。
20x24インチのインスタントフィルムを、ポラロイドが生産していた頃、
緻密な再現性とスピーディな現像能力から、医療や建築の現場での使用を主に意図していたという。
そして現在、同じサイズのインスタントフィルムが、まったく異なる特性を持って、出現したのである。
2011年暮れ、重量200KGにおよぶ、20x24インチサイズの
世界最大のポラロイド社製ヴィンテージインスタントカメラが日本に上陸した。
撮影には、複数の職人が立ち会わねばならない。
フォーカスを結ぶために。フィルム上を流れる現像液の適正量を耳で計測するために。
写真家は、彼らとの緊張感あふれる共同作業を余儀なくされる。
画像が現れるまで、待つこと数分。
現像液が乾くまでの間(ときに数ヶ月かかることもある)、フィルムは変化しつづける。
最終形を見越してのシャッターチャンス。
モデルは、永年にわたる荒木のミューズ、KaoRiである。
モノクロームの撮影のため、白いブラウスと黒いスカートで現れた清楚な姿が、
1枚1枚、衣裳を脱ぎ捨てるごとに、妖しく艶めき、透明な美しさをまとっていく。
戦場のような撮影現場で産み落とされた作品は、数ヶ月を経て、フィルムに定着した。
不思議なことに、作品の表情には、いっさいの変化が見られなかった。
ちいさな偶然と必然が充満し絡み合い、時の経過が織り込まれて、生成されたこれらの作品は、
まさに奇跡と呼ばれるべきであろう。
本展は、時期を同じくして、代官山 蔦屋書店と、IMPOSSIBLE PROJECT SPACEで催され、
荒木経惟による2024インチ・インスタントフィルム作品が初展観されます。
また、IMPOSSIBLE PROJECT SPACEでは、2011年6月に台北で開催され、大成功をおさめた
荒木経惟「遺影 BLACK FRAME」から主要な作品をご紹介いたします。
本展と同時に、20x24インチフィルムと同寸サイズの作品集(限定版/作家サイン入り)が刊行されます。
会場:代官山 蔦屋書店 1Fギャラリースペース
IMPOSSIBLE PROJECT SPACE
2箇所同時開催予定
開催概要
会期:2012年8月14日(火) - 9月14日(金)
会場:蔦屋書店2号館 1階 ブックフロア
開館時間:朝7時~深夜2時
入場料:無料
主催:代官山蔦屋書店
協力:impossible
住所:〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町17-5 代官山 蔦屋書店2号館1F アートフロア
アクセス:東急東横線代官山駅から徒歩5分
お問い合わせ:03-3770-2525
荒木経惟 20x24 INSTANT FILM
http://tsite.jp/daikanyama/event/000909.html